魔方陣
私の通っていた高校は県下でも有名なスポーツ高だった。
入学して早速、友達と二人で部活見学をしていたら、
練習が厳しく、上下(先輩、後輩)関係も最高にキツい。と有名な部が連なる中でも、ぶっちぎりで一番過酷。と評判の、、ある部のマネージャーに誘われ、お試し体験を経て、なんとなくそのまま入部することになった。
後から知ったのだけれど、学校のチーム自体が国体指定選手団?だった、、、。
(ちなみに私は初心者です、、)
正式な入部初日、私達新入生は、ほぼずーっと先輩方の練習を見学をしながらの、基礎練習のみで、、このまま終わるかと思っていたら、ボールも片づけた最後の最後に(団体球技だった)
監督から低い声で
『円陣!!』
と指示が出た。
なぜか、先輩方に緊張が走り、新入生の方を見ながら、一瞬の躊躇がある。
それを横目に、監督が再度強い声で指示を出す。
『全員で円陣や!全員で組め。』
私は、先輩の一人に呼ばれて、円陣の輪の中に入れてもらった。
この『円陣』とは、、
簡単に言うと、全員で輪になり、手を繋ぎながら、『いちにっさん!』と、掛け声をだしながら、1と、2では、片方ずつ足をあげて、3で、思いきり両足でしゃがみ、立ち上がる。を繰り返す。というスクワットを連続で50回続ける。という練習方法だ。
(ちなみに、誰か一人でも、ついてこれないと、回数はクリアになり、はじめから50回やり直さなければいけない。という、ルールがあった。)
スポーツをやっていた人なら、なんとなくでも、上記の説明だけで、過酷さを想像できるかもしれない。。。
私の円陣デビューが、どれほど酷いものだったかは、ご想像にお任せするとして、、、私はこの50回を、初日からやり遂げた。
なぜそんなことが可能だったのか?
答えは簡単で、
両脇の先輩が、私の腕を両方から無理矢理引っ張りあげてくれたから。
これに尽きる。
この無理矢理引っ張りあげられながらの円陣はこの後、数ヵ月続くことになる。。。。
そして、この涙の数ヵ月を過ごした後には、筋肉が付き、持久力が付き、バネもできてきて、いつのまにやら、自分の力で50回を、やり遂げられるようになっていたように思う。
しかし、この円陣、、、こんなもので終わらない。
ようやく普通に円陣をこなせるようになったあたりで、
新入生が入部してくる。
当然自分は2年生にあがる。
今度は自分が新入生を引っ張りあげる番だ。
グラグラして今にも倒れそうな新入生を、スクワットをしながら、無理矢理に引っ張りあげる。
自分が散々やってもらっておいてなんだけれど、、
想像の数倍キツかったことを覚えている。
自分もバランスを崩して一緒に倒れそうになるのを必死で堪える。
ちなみに、、もしも慣れない1年生が、立ち上がれなかったり?何かの拍子で円陣を崩してしまった場合は、、1年生には責任はなく、怒られるのは、その手を繋いでいる2年生になる。
そして、円陣が2回崩れた場合は、1年生は免除され、2年生と3年生だけで、円陣を組みなおし、50回連続で成功するまで続ける。
さらに3年生にあがる。
監督の円陣を組め。という合図に、2年生に緊張が走り、1年生はポカンとしながら、呼ばれた場所へいき、手を繋ぐ。
そして、『いちにっさん』と、掛け声をかけながら50回がスタートする。
訳もわからず、荒い息遣いでグラグラする体を無理矢理に引っ張りあげられる1年生。
ものすごい形相で、1年生を引っ張りあげる2年生。
その光景を見ながら、3年生は、こっそりとお互いに、ニンマリし合う。
なんというか、、過去の自分の姿でもある姿に、おかしみ?が込み上げてくるのだ。
ちなみに、3年生は、自分のことだけやっていたらいいのか?というと、それは大間違いで、円陣の全体の責任を持たないといけない。
円陣が何回か失敗したら、それは3年生の失敗として、追加で外周などを指示される。
3年生は円陣全体に責任を持ち、
2年生は自分と1年生に責任を持つ。
1年生は自分がバランスを崩し、倒れたら自分ではなく2年生が注意されることを知り、何がなんでも自分に責任を持つ。
つまり、、、初めて輪に入れてもらったその瞬間から、自己責任の円陣の一員となる。
残念ながら、、その後、高校を卒業して、この円陣も卒業となった。
しかし、私は、何年も前に別の円陣に入れてもらい、
自己責任の魔方陣の一員となることができた。
私の高校生の時の円陣デビューは酷かった。
その何年も後の魔方陣デビューも、これまた酷かった。
ただ、失敗が人より多いと、、2年生になったときに、その経験が生きてくるかもしれないことに気がついた。
失敗万歳!!
それこそが、エメラルドの原石になる(かもしれないのだから)